我無ちゃんねる 〜ニュースなび〜

冬季スポーツの祭典、平昌（ピョンチャン）五輪では、女子選手たちが大活躍している。主将を務める小平奈緒（相沢病院）、高木美帆（日体大助手）らのスピードスケート勢はメダルラッシュ。ジャンプも高梨沙羅（クラレ）が念願の銅メダルを獲得した。日本からは海外開催の冬季五輪としては最多となる269人（選手124人、役員・コーチ145人）が参加。最も多かった1998年長野大会の10個を超えるのは確実だ。「史上最強」の呼び声もある今回の日本選手団だが、夏季に比べると認知度が低い競技が多いのも事実。選手らを取り巻く環境を調べた。
日本選手団の内訳は男子の52人に対し、女子が72人。前回のソチ大会に続いて女子選手が多数を占めた。過去の冬季五輪で女子のメダル数が男子よりも多かったのは、2006年トリノ大会（フィギュアスケート女子の荒川静香の金が唯一のメダル）だけだが、今回の平昌大会では小平や高木、高梨らの活躍で名実ともに、女子が男子を上回る大会として記憶されることになるかもしれない。
　だが、冬季競技を行う女子選手が置かれている経済状況は決して良好とはいえない。笹川スポーツ財団が16年1月にまとめた「オリンピアンのキャリアに関する実態調査」によると、競技を継続するために1年間にかかる経費の自己負担額は、夏季五輪の男性が206万2千円、女性が250万7千円だったのに対し、冬季五輪は男性が245万4千円、女性が460万9千円と、男女ともに冬季の方が高額だった。特に、冬季の女子は他に比べて約200万円以上も自己負担額が多く、突出していた。
また、引退した理由のうち「金銭的な問題」が占める割合も、夏季五輪は6・2％（男性7・1％、女性3・9％）だが、冬季五輪は18・2％（男性13・0％、女性30・4％）。冬季の方が経済的理由により競技を続けられなくなった選手の割合が高いことが浮き彫りとなった。
調査に携わった同財団スポーツ政策研究所の吉田智彦主任研究員は「（回答した）冬季の女子選手数が少ないので、理由は一概には言えない」としながらも「所属先がどこかという点が結果に影響していると思う。選択肢が少なく、冬季競技をしている女子選手を支援する企業もまだ多いとは言えない」と説明した。
　一方で、そうした状況を変える取り組みも始まっている。日本オリンピック委員会（ＪＯＣ）は2日、企業と現役トップアスリートをマッチングする就職支援制度「アスナビ」を利用し、平昌五輪スピードスケート・ショートトラック女子代表の神長汐音（かみなが・しおね）（長野・小海高）とアイスホッケー女子代表の志賀葵（北海道・帯広三条高）の入社先が決まったと発表した。スポーツ将来構想プロジェクトの一環として10年に始まった同制度を通じた就職決定は130社・団体で計194人となった。
　内訳は、夏季競技116人、冬季競技47人、パラリンピック競技31人。冬季の採用者は実数では少ないが、強化指定選手の数は夏季が約1500人、冬季が約400人で、冬季の場合はその1割以上がアスナビを利用して就職している計算となる。
　中でも目を引くのがアイスホッケー選手だ。志賀をはじめ17人が就職決定選手として名を連ねる。前回のソチ五輪出場を決めた後、環境が大きく好転して競技に専念できるようになり「一番の成功例」とされる。それでも、ＪＯＣキャリアアカデミー事業でディレクターを務める中村裕樹氏は「まだマッチングできておらず、アスナビに登録されたままの選手もいる。早く就職させてあげることで経済的な負担を減らし、競技力の向上につなげたい」と強調する。
吉田主任研究員は「冬季にしても夏季にしても、五輪で活躍した選手そのものが一番のレガシー（遺産）。そういう選手をどう教育し、支援していくのかの体制づくりをスポーツ界全体で考えなければならない」と話している。
　ＪＯＣでは、トップアスリートが現役を引退し、次のステージにスムーズに移行する為の支援制度「アスナビネクスト」も立ち上げている。現役のうちから競技引退後の生活を構想する「キャリアデザイン力」を高め、準備することを目指している。
　かつては、引退で競技人生にひと区切りをつけ、新しく「第2の人生での職業」を探す「セカンドキャリア」の方式が一般的だった。しかし、近年は現役時代のうちに「人としてのキャリア」と「選手としてのキャリア」の両方を同時に形成することに取り組む「デュアルキャリア」の方式が浸透しつつある。
　笹川財団の調査では、オリンピアンの現在の職業への入職経路は「縁故」が35・4％と最も多く、「以前に勤めていた会社」（8・8％）、「学校」（7・7％）−の順。引退年齢は夏季の男子が31・5歳、冬季は29・6歳、女子はそれぞれ26・8歳と27・4歳。長い期間を過ごすことになる引退後の人生設計のあり方が、重要となっている。
http://www.sankei.com/west/news/180219/wst1802190004-n1.html